
前、一人で川崎駅のクリスピークリームドーナツに行った。店内で食うのは初めてなのでどんなもんかと。
で、店内の奥の方の椅子に腰掛けて、コーヒー飲みながら一人でドーナツ食ってた。
しばらくしてから、隣のテーブルに若い男女が来て座った。ちょっと小太り、耳にピアスの男と、どこにでもいそうなOLっぽい女。テーブルの間隔が狭いのと、男の声がでかいので、嫌でも男女が喋ってる内容が耳に入ってくる。
男と女はそれぞれが、敬語で話し合ってる様子だ。・・・なぜ両方敬語?
男「クリスピークリームドーナツ、初めてなんですか?」
女「はい、初めてなんですよ。」
男と女の間の、小さくて丸いテーブルの上に置かれた、オリジナル・クレーズドとかオールドファッションとかの、クリスピークリームドーナツのドーナツがいくつか。1つの皿を、二人で分けて食うようである。
男「おいしいですか?」
女「はい、おいしいですぅ。」
ドーナツを二人で食べ合うのはデートでよく見る光景だが、二人はお互いに敬語で喋り合っているのだ。しかも、今日初めて会ったようなよそよそしさがある。これは、どういう関係だろう? お見合い?出会い系?
嫌でも耳に入ってくるが、しばらく会話を聞くことにした。
男はiPhoneを取り出し、何やら女に見せている。男は早口で、iPhoneの事を喋っている。女は「へぇぇ」「ふぅぅん」としか言わない。
女「iPhoneって、電池無くなるの早いんですか?」
男「そんなことないっすよ!朝満充電したら夜まで持ちますよ!ほら、今とかは外にバッテリー付けることもできるから。エネループとかヨドバシで5000円くらいで売っててヨドバシのポイント10%付けたら4500円くらいかな?これを一緒に持ち歩いたらいつでもiPhone充電できるから。あ、USBで付けれるから他のUSBのも充電出来たりするし。ほらiPhoneってバックライトとか明るくするとバッテリー減るの早いし俺暗くしてるんスよ!バッテリー暗くしてエネループ持ち歩いたら全然バッテリー持ちますよ!」
女「へぇー。」
男、喋りすぎである。女はこれだけの情報量を求めていないし、男の話の内容も濃いとは思えないが、とにかく早口でペラペラと喋る。女はあまり理解していないようだ。
ひとしきりiPhoneの話を終えた男は、寂しそうな顔を作り、前の女の話を始めた。
男「もー、分かれる前に電話したとき、なかなか出てくれないんスよ! 何日か前に普通にメールの返事も来てたのにもうメールの返事も返ってこないし・・・」
女「へぇー。」
前の彼女の話なぞされても、そりゃ、「へぇー。」だろう。
男「それで、最後にメールが来たんですよ! もう貴方とはつきあえないって!どう思います? 俺これまでどれだけ彼女のこと思ってたか! ひどいっスよね!ありえないっスよ!」
女「へぇー。大変だったんですね。」
女、ちょっと困っている。男は一方的に、まくし立てるように、早口で前の彼女の話を「もう大変!俺を助けてくれ!」的な表情で話し続けている。
男「俺もう4ヶ月も彼女いないんスよ! あり得ないっスよ!! 俺、もう、どうすれば!!」(と言って、机に突っ伏す)
女「いや...まあ、大丈夫ですよー。」
男「ホントっすか! だから、次がホントあなただと思ってるんスよ...」
女「...。」
おい、今何つった。「次があなただと思ってる」だと?
そして話はまた前の彼女に戻る。
男「で、別れる時に云々かんぬん...」
また延々と元カノの話をしたと思ったら、女が急に机を叩いた!!
女「もういいですその話は!! 生々しすぎます!!!」
女、ついにキレた!! 俺も結構ビビった。反対側のテーブルに座ってたカップルの男女もさすがにガン見だ。
男「あっ・・・ じゃあ、これまでの話、全部作り話ってことで...」
オイ!今なんつった? 全部作り話...だと...? どんだけヘタレなんだこいつは...
しばし沈黙が訪れる。テーブルの上には、「遠慮の1つ」という感じで、オリジナル・クレーズドが一つだけ。お互い、手を付けない。
男「ドーナツ... 食べますか?」
女「いえ... もうおなかいっぱいなんですよ。」
男「僕ももう結構おなかいっぱいで... 是非食べてくださいよ...」
女「そうですか。」
女、ゆっくり最後のドーナツを食べ始める。男、沈黙...。
ドーナツを食べ終わったタイミングで、男は言った。
男「この後どうしましょう。飲みにでも行きますか。」
飲みに! あれだけキレられたのに! よく誘えるなあ...。
女「そうしましょうか...」
と言って、席を立った。結構マンザラでも無いのか?
一体二人はどういう関係だったのだろうか... 最後まで分からず。