試乗! トヨタ アクア

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初代プリウスが「21世紀に間に合いました」というコピーで鉄腕アトムと共に新聞広告を打ってから15年近く。今やハイブリッド車は大きな広がりを見せているが、トヨタに始まったハイブリッド車ラインナップの中でも、この「アクア」は今後を占う大きな使命を持って生まれてきた車なのではないだろうかと感じる。
どういう事か。これを飲み物に例えるならば、今スーパーで牛乳売り場に行くと、昔からの3.6牛乳の他に、低脂肪乳や無脂肪乳が幅を利かせている。むしろラインナップの半分以上が低脂肪乳だろう。加工乳であり、厳密には牛乳ではないのだが、味付けに関するテクノロジーが進化したため、牛乳と全く同じ感覚で飲むことができる。そしてコーラもそうだ。ペプシNEXやコカコーラZEROなんかも、これまでのカロリーの高いコーラと寸分変わらない味付けでカロリーゼロを達成している。ビールだってそうだ。きりがない。つまり、快楽と共にやってくるカロリーというネガティブを、テクノロジーによって高度に取り去っているわけである。やがてそれが普通になり、誰もその差に気づかなくなるのだろう。
車にも同じ事が起こっているのだ。走りを犠牲にせず燃費を向上させるために、ハイブリッドがある。初期のプリウスはいかにもハイブリッドという車だったが、ここに来てハイブリッドシステムがやっと「黒子」になったなという印象を、アクアの試乗から受けた。

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プリウスという車は今までのガソリン車との違いを出すことで、それをアイデンティティとしてきた。それはエネルギーのモニターに始まり、空力を追求しすぎたようなボディや独特なシフトレバーにもそれが表れているが、このアクアはいたって普通だ。エネルギーのモニターもそれほど主張しないし、シフトレバーは普通のAT車と同じだし、ボディのデザインもヴィッツと何ら変わらない印象。つまり、これがハイブリッドだ!という主張はもう新しくないのと同時に、ハイブリッドであることを上手く隠すテクノロジーが成熟したとも言える。これが僕がアクアに「ハイブリッドの本当のスタート地点」と感じた部分だ。

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もう、エンジンスタートボタンを押してもエンジンがかからず、「Ready」ランプが点くだけというこのシステムにも慣れた。アクアは走り出すと意外とどっしり感がある。ボディサイズは5ナンバーギリギリで、全長は4mジャストという所、プリウスより300kgも軽い車体だが、車格が一つ大きいカローラのハッチバックなんかに近い感覚だ。
運転もこれがハイブリッドだと意識することなくごく自然。回生システムのあるブレーキのフィーリングもよく、カックンしない。システム出力が100psということで(デチューンされている)走りに関して感動するようなことは特になく、1Lくらいのヴィッツの感覚に近い。ハンドルはクイックでちょっと楽しいと思える。

なにより好感触だったのは、プリウスにあったサイバー感が無く、今風のごく普通のトヨタなインテリアデザインだったこと。前述のシフトレバーと共に、ごく普通に乗れる感じ。シートも肉厚でホールド感もあった。
この、コンパクトカー+ハイブリッドで「普通」というコンセプトは、FITハイブリッドが先にやっているわけだが、この二つは直接のライバルとなるであろう。そこでトヨタの売りはバッテリーの容量が大きいので、アイドリングストップ時でもエアコンが作動しているよ、ということなのだろう。

このアクア、予約殺到につき、今注文すると納車は5月になるのだとか。生産は全て岩手にある関東自動車ということで、震災復興も考慮しているのだろうと思われる。

これからのスタンダードはハイブリッドがごく普通になることであり、アクアはそういう意味でエポックメイキングだ。