■もう違和感は薄れたか?
この車がデビューした時、あまりにも鈍重なイメージのフォルムと、金持ちおっさんに好まれそうな応接間チックな雰囲気に、「ええーっ、ポルシェのイメージじゃなーい!かっこわるーい!」という違和感を覚えた人は多いのでは無いだろうか。勿論自分もその一人だ。持ってる人には悪いけど…
ポルシェはピュアなスポーツカーのメーカーであり、神聖な領域なのだと。だから4ドアセダンなんか出すんじゃないよと。そういう先入観あっての第一印象だ。
当然のことながら、パナメーラのプライスと自分との間に何の接点も無く、やはりポルシェと言ったら911だよなボクスターだよな…という思いもあり(カイエンの人その他すみません)、正直忘れてました、この車。
だって街中も全然走ってないしね。
でも気がつけば、デビューしてから今年で4年目なんだってね…
フェラーリもFFなんていう4人乗りの新車種も出すし、ランボルギーニもSUVを出すという発表もある中、4ドアのポルシェ、パナメーラ。あの時覚えたあの違和感、今、実際に乗ってみるとどうなのか? というわけで、ポルシェ パナメーラ Sハイブリッド 25thアニバーサリーに試乗しました。
■やっぱりデカイよ
あまりイメージ無いが、911も実は4人乗りで、後ろに二人座れる。いや、座れるというテイであり、実際に座ってみるとリアガラスの低さで首がおかしくなりそう。だからこそあんなスマートなボディのシェイプを実現している。
それに比べてパナメーラは、欲望の限りがここにあるようだ。肉を食ったら太る。酒を飲んでも太る。それが嫌で、アスリート体質の911は酒飲まない、肉はササミしか食わないストイック君だから、いつまでもスリムで二枚目だ。まるで郷ひろみである。パナメーラを見ていると、昔は優れたアスリートだったのに、暴飲暴食を繰り返したあげく、体がどんどんでかくなってしまったスポーツ選手を見ている気分になる。それがパナメーラに対するイメージなのではないか。要は、デザインのまとめ方と、ブランドイメージの整合性。
■ポルシェがポルシェであるために
ハッチバックスタイル(スポーツバックとも言う)で無ければならない、なんて誰が決めたのだろう。
これがレクサスLSのようなセダンだったらどうだ? パナメーラという名前で完全にセダン体型だったら。
セダン体型だったら、鈍重な感じはしないと思うのだ。けど、ポルシェらしくないことは確か。
セダンはやっぱりダメ。ポルシェらしい格好いいスポーツバック形状じゃないと。それでいて大人4人が楽~に座れること。という難しい題材を徐々に形にしていったのだろう。もちろんそれだけではない。
■これがポルシェであるという部分とは
5連メーターはポルシェの伝統でありアイコンだ。911にルーツを持ち、カイエンにも採用されている。これを見るとあっポルシェだ、と思うだろう。
しかしそれ以外は、完全に新しい物としてコンセプトを1から作られているのだが、その中でポルシェ911との共通項を少しでも多く持たせる、持っているように演出することがどれだけできるか?が、腕の見せ所なのだろう。
だって、これくらいのサイズで、これくらいのパワーがあって、これくらいゴージャスなセダンだったら、他にもいくつもあるじゃないか。
そういうことが脳裏によぎり、果たして「パナメーラを買う意味」とは? について、考えてしまった。これは深いぞ…
■ポルシェはドMか
実際運転してみたが、もう十分すぎるほどパワーもあり、静粛性も高い。車高の上げ下げで、コンフォートモードとスポーツモードを切り替えたりもできる。色んなハイテク機能が満載だ。
しかもこいつはハイブリッド。モーターだけで走ったりもできる。
ハイブリッドの方向性としては、プリウスのような燃費指向ではなく、モアパワー指向とのこと。
1800kgある車体を、3L V6 NAエンジンとモーターアシストで、いとも軽く動かしてみせる。
低速時では拍子抜けするほど軽いステアリングと、ちょっとカックンだけどよく効くブレーキ。
全てのタッチは軽く、簡単に運転できる。横の幅も外から見る程は感じない。運転していて緊張感も感じない。が、踏んだら約束通り速い。
あんな鈍重に見えるのに、運転してみると羽が生えてるように軽々と動く。ステアリングの切れ具合もクイックで鋭い。上品さの中にふと顔を出してくるポルシェの性能。
ディーラーの営業さんが言った。
「ポルシェは、多少乱暴な運転をして、いじめてやった時に、真価を発揮するんです」
スポーツカーとして限界性能が高いぞ、という意味である。どれだけでも加速できるしタイヤはグリップするしボディは頑丈だしブレーキもよく効く。でもそれが分かるのは、レーシーな次元においてだと。
そりゃそうだろう。
しかしこれはパナメーラである。ラグジュアリーなシート、上品で高質なインテリア。後ろに大事な人が乗ってるかも知れない。問題はそれでいつ限界まで攻めるんか? ってことである。
営業さんは言った。
「もちろん普段は静かに、上品に。でも限界まで攻めることだって出来るんです。それがパナメーラなんです」
■欲望の全部乗せ
「ラーメン二郎」で「全部乗せ」というと、「野菜、カラメ、ニンニク、アブラ」が全て盛られた状態で来る。
「こんなの食えるかよ!」と思ってしまう程のビジュアルショックな食べ物が出てくる。
先ほどの営業さんの話で、それだと思った。
人間の欲望を、全て足し算で一つも引かずにやたら丁寧に足していく。少しでもバランスが崩れると一気に崩壊するくらいの精緻さで足していく。有能なデザイナーがそれを綺麗に整形していき、完成。
それがパナメーラなんだと。
聞けば、中東・ロシア・中国といった、お金のある所、イケイケな発展をしている所で、パナメーラとカイエンは大ヒット中らしい。
その「欲望全部乗せ」具合が、それらの国でのサクセス・ステイタスになり得ることは容易に想像が付くだろう。
しょぼくれて、しみったれてしまった今の日本では、だからパナメーラの魅力が理解できないんだ。もっとギラギラせんと。
いつまでも
「若者が車離れをしてるから、安い車で若者に近寄ってみよう」じゃだめだ。いくら女性をマーケティングして、買い物袋フックの数をいくつ付けてみましたとか、そういうレベルではだめだ。
これからはパナメーラのように、「全ての欲望をここに形にしてみたぞ。買えるものなら買ってみろよ若造よ!」という価値観を提示して、若いやつのやる気をモリモリさせないとならないだろうな。
そしてそれほど「欲しくなるブランド」に「ポルシェ」があるということでもあるんだな。
同じ性能、同じ形してて、これがヒュンダイだったら随分扱い違うだろうな。
そんなインプレでした。