「いと美」と赤井英和さんのいい話

僕の母校である近畿大学の近辺に久々に行った。
相変わらずごちゃごちゃと、学生を誘惑させるお店の数々が通りに並んでいるが、13年前の在学当時から変わらず、今でもやってるお店は意外と少なかった。

変わらずやっているお店で、どうしても久々に行ってみたくなり足を運んだのは、定食屋の「いと美」。

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僕の在校生当時と1ミリたりとも変わってないのではないか?と思える佇まい。外のメニューのサンプル。店内の様子。大学本体もかなりの部分が変わっている中、ここだけ時が止まっているようだった。

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壁に貼られたメニューの焼け具合が年季を感じる。
1ランチや2ランチなど、おかずの組み合わせによって番号が違い、最初は戸惑う。この日は「13ランチ」という臨時メニューが560円だというので、オーダーした。
13ランチは、串かつ・エビフライ・ハンバーグのランチであった。

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これが13ランチ。他のランチもだいたいこんな感じで盛りつけられる。
学生向けのお店であるため、サラダやご飯がとにかくボリュームがある。そしてまた、いちいち美味いのだ。

13年前までよく食べていたあの味のまんまで、空白の13年間を一瞬で埋めてくれた、まさに「13ランチ」であった。ガツガツと食い散らかしながら食べるのが最高である。

そして食べ終わり、土曜日ということもあり自分以外のお客さんもいない中、昔と同じくらいファンキーなグルーブのあるおばちゃんと久々に喋った。

・10年ちょっと前に切り盛りしていたご主人が亡くなり、もう店を閉めようと思ったけど、息子が継いでくれたからまだやっていること
・メニューも、値段も、昔から一切変えていないということ
・最近の学生は、みんな「草食系」になってしまい、あまり量を食べなくなったということ。このようなガツガツランチ系のお店にあまり来ないのだという
・最近の「草食系」の学生はみんな同じような顔をしているから、お店に来ても顔が覚えにくい。でも服装だけはオシャレだし女の子は昔よりぐっと綺麗になっているなということ
・昔はラグビーとかアメフトなんかの体育会が一度に来たけど、最近は栄養士が付いて食事を管理してるから、うちには来なくなった。でもそれ以来全然試合に勝ってない。やっぱガツガツ食べんとあかんよ
・近所にあった、(当時かなり好きで、これまた通ってた)トンカツ屋さんの女将さんも亡くなってしまい、店も更地になったということ。「もう、おばさんくらいの年になると、どんどん亡くなっちゃうもんやから、寂しくてね」

僕が卒業した1999年からもう随分と何もかも変わったよ、という話である。「変わってないのはおばちゃんとこの店だけやで」と。

そんな雑談の中、ふと、赤井英和さんの話になった。
赤井英和さんは、近畿大学のOB。自分の大先輩にあたる。

赤井秀和さんは学生当時からこの「いと美」に通っていたらしいのだけど、ボクシングを引退して東京で役者をしている今でも、仕事などで大阪に来た際に少しでも時間があれば、この「いと美」に寄っていき、当時と同じランチを食べていくのだという。

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店内には赤井英和さんのサインが飾られている。これは自分の在学当時からあった。全く変わらずだ。「いと美のおばちゃん」

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記念写真も飾ってあった。

赤井秀和さんが在籍し、俳優になるまでの間コーチもしていた近畿大学のボクシング部は、2009年、部員の不祥事にて廃部となってしまった。

それ以来、赤井秀和さんはボクシング部の復活のための嘆願書を作り、大学まで足繁く通っているのだという。
そして、ボクシング部「だった」後輩たちを連れて、この店に来ているのだという。

テレビに映ったりとかそういう場所じゃない所で、関係者と、この定食屋のおばちゃんしか知らない世界の出来事だろうと思う。
何十年もこの大学の学生の胃袋を満たしてきて、外の世界の全ては変わっても、今もなお当時と何一つ変わることのないこのお店は、赤井秀和さんにとっても、最も落ち着ける、信頼できる場所なのだろう。
お店のカウンターで、熱く語っている赤井さんの絵が浮かぶ。
酒が入り、「赤井先輩の話、またループしてる…」と思っている後輩の絵も同時に浮かぶ。
誇るべき先輩。

そして、「草食系」なんてやってないで学生はガツガツと飯を食うべきだし、こんな貴重なこのお店がこれからも永く続き、おばちゃんも元気でいてくれて、ボクシング部も復活することを願うばかりである。

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定食の店・いと美
近鉄長瀬駅から徒歩3分