退職の翌日、福島の山奥での激ハードかつ激エモい奇祭に参加してみた

一人で参加することになったツアー

会社を退職して送別会もしてもらった翌日、一息ついてのんびりしたい気持ちにムチ打ち、遠く福島県の二本松で行われる伝統の祭りに参加した。

これは、「あうたび」という、日本中の素敵な人に会うことをコンセプトにした旅のツアー会社が企画したもので、そこにこの祭りへの参加募集があり、強く興味を惹かれたので参加申し込みをしていたのだった。こんな機会、普通無いだろうし。
その開催日が最終出社日の翌日になるとは申し込み時点では知らず…

早朝、ツアー出発のための待ち合わせ場所に行き、そこで主催者から告げられた衝撃の一言
「今回ドタキャン出ちゃったりして、参加者一人になっちゃいました」
まじかよ! 俺一人!

俺一人に対して添乗員二人というどう考えても赤字なツアーは、こうして始まった。
ちなみにツアーに申し込んでどこかに行くという経験はこれが初めてである。

祭りの名前は「木幡の幡祭り」という。

公式ページによると

祭りの起こりは、天喜3年(西暦 1055 年)。今から約960年前の「前九年の役」の最中、陸奥地方鎮定に向かった源頼義とその子義家率いる軍勢は、時の豪族安倍一族との戦いに敗れ、わずか数騎で付近の農家で宿をとっていた。
するとその夜、天女が夢枕に現われ「弁財天宮で祈願すれば願いが叶うだろう。」とのお告げをうけた。
敗戦を覚悟していた頼義父子は夢に従い神社にて戦勝を祈願したところ、その夜、折からの雪で山上の木立はすべて源氏の「白旗」のように見え、攻め寄せてきた安倍貞任らの軍勢は、これを源氏の大軍と思い込み、戦わずして退散してしまった。
これが陸奥鎮定の原因となり、朝廷に申し上げたところ、天皇はこの山を「木幡山」、山すその別当寺院を「治陸寺」(陸奥を治める寺)と名付けられ、後冷泉天皇より宸筆の額を賜った。
その後、神仏の加護を深く信ずる郷土民により、源氏の白旗に見立てた幡を木幡山、そして別峰羽山神社に奉納する勇壮な平安絵巻「木幡の幡祭り」として引き継がれ、今に至っており、平成17年には「国の重要無形民俗文化財」として指定を受けた、大変伝統のある祭りである。

とのこと。なんと960年の歴史ある祭りなのだ!
そんな祭りに、よそものが突然参加して良いものなのか!?

ザ・農村に身体が溶けていく

車は昼前に二本松市に到着。
農家民宿にて何から何まで手作りのうどんを頂いたり、ヤギを愛でたり、祭り主催の神社の神主さんにご挨拶したりと、まったりした田舎時間が流れる。

ザ・農村風景
農家民宿、関さん邸に向かう
全部手作り、驚愕の美味さ
ヤギだけは僕のことを分かってくれる

集落では幡祭りの準備が行われているということで、いよいよ合流した。

退職日の翌日、俺は竹やぶに入った

折越地区にある集会所では、祭りで使う幡の準備で大忙し。

着くやいなや早速「竹切りに行くぞ!」と言われ、長靴に履き替えて軽トラ荷台に乗り、近くの竹やぶへ。

これぞ、ザ・竹やぶ

地元の方はこのカオスな竹やぶの中をめちゃくちゃスムースに進んでいくので、ついていけない!
サラリーマンを続けているうちに、俺の竹やぶ力は地に落ちてしまったと少々凹んだ。元から無いけど。

こんなの

切った竹をゴリゴリと渡され、それをバケツリレーみたいに下に渡していく。
そんな単純な作業ですら、途中の竹に引っかかってなかなか難しい。

何かと戦う

しかし楽しい。なんだこれは。
まさか会社を辞めた翌日に竹やぶで竹切ってるとは、想像もできない人生だ。

で、切ってきた竹を軽トラに載せるのだけど、

絶対載らないやつ

無理やん! めちゃくちゃはみ出てるやん!

と思っていたが、そんなことは一切気にせず

ズルズル引きずりながら、ホンダ・アクティは爆走する。
最高か!

荷台から下ろす

採ってきた竹は旗の竿として使う。
そのため、藁を竹の周りにぐるぐる巻くのだ。

この作業が地味に大変

すげー巻いた。
それでも地元の方々は、巻くの速い&美しい。慣れてらっしゃる…

でも、なんで藁を巻くの?と聞いたら
「この方が、見た目がいい」
とのこと。
ヴィジュアルのためだった!

新品じゃないと駄目!ヒップホップ的スタイル

集会所の中では、割烹着姿の女性陣が旗につかう布を切って、手編みで縫い付ける作業が大詰めだった。

全部手作り

毎年行われるこの祭りでは、幡は毎回新しいものを手作りする。
一切使い回しはしないのだ。
ヒップホップのファッション的な美学を感じる。

で、藁を巻き終わった竹竿は、窓から部屋に入れる

窓からの竹竿!

ダイナミックだ。

いっぽう外では、なにやら謎のものが作られている。

なんだこれは?

ちょっとエッチな雰囲気がするが、まさか…

これで「太刀」

明日の祭りで、「権立」(ごんだち)と呼ばれる、今年成人した男性に持たせるための「太刀」だ。
剣先を男根にすることが習わしなのだという。

ダンコーン!

ここで男根に出くわすとは。そしてこれが明日どうなるのか?

まさしく、Chimpoである

冷水を浴びて穢れを落とし、浄化した!

「木幡の幡祭り」1日目の夜にあるのが、「水垢離」(みずこり)
祭りに参加前に、頭から冷水をかぶり、穢れを落とすという儀式だ。

夜になってどんどん冷え込み、外は気温3度。
そんな中で水を浴びるとか、まさに苦行!

ふんどしを渡されて、各自ふんどし一丁の姿になる。
足はわらじだ。

マジかよ!死ぬ!

と思ってる間もなく、ふんどし姿の集団は神主さんに先導され、歩いて神社へと向かう。

神社の脇にある井戸の前に集まり、祝詞をあげてもらう。
これが、、、長い!

ありがたい祝詞

早くして!!

ありがたい祝詞

早くして!!!

そして名前が読み上げられ、いよいよ自分の番に。

水をすくって
バッサァァァ!

ヒィ~~っ!!
めっちゃ気持ちいい!

整った!!

とか言ってる間もなく外気温が寒すぎて、即座に火の近くに行く…

退職の翌日、まさかの水垢離。
あんなストレスあったなぁ、あんなヒドイことあったなぁ…という会社員時代の罪や穢れが、今の水垢離で全部流された!

全ての退職者にお勧めしたい。水垢離。

終わってホッとしてると、あうたび添乗員の方から「もう一カ所、水垢離ハシゴしましょ!」とのお誘いが。
正気かよ!どうかしてるぜこのツアー!

と思いながら二つ目の水垢離会場に向かう。全てを受け入れるスタイルこそが旅だ。

二つ目の水垢離会場は、竹の中にキャンドルが仕込んであったりして、なかなかムーディな雰囲気。

なかなか
ムーディ
令和である

ここでもふんどし姿になって整列し、順番に

バッサァァァ!!

もう慣れたもんだぜ!
でもやっぱり冷たい!

まさかのダブル水垢離をキメて、すっかり邪気が払われ、純粋そのものな人間として生まれ変わることができた…気がする。

夜は宴会!

水垢離が済んで祭りの準備も終わったら、夜は「直会」(なおらい)と呼ばれる地元の人達の精進料理での宴会へ。

「えぇ~ 水垢離2回もやったの! 地元の人でもそんなのやらんよ~!」

と方々からツッコミまくられ、すっかり打ち解けて盛り上がりました。

翌日、幡祭りの本番の朝!

今日は幡を持ってひたすら歩く、祭り本番の日!
おはようございますと集まり、装束を渡される。

これに着替える。クリーニング後でパリパリだ

木幡の幡祭りで幡を持つグループは「堂社」と言われ、各集落ごとに全部で9つの堂社がある。
今回は「梨木内堂社」からの参加となった。

梨木内堂社の皆様と記念撮影!

あうたびツアーご一行様で記念撮影!

全ての堂社が集まる会場まで2キロほど、幡を持って歩いて向かう。

このとき初めて幡をもったけど、重いのなんの!!

重さにして10キロ以上あるのに加え、高さもあるので少しでも斜めにするとガーっと持って行かれるし、風が吹いたら大変なことになるしで、なんと過酷な祭りが始まるのだと予感させられる。

「まだ準備運動だから~」

まじかよ!地元の方々~!

即席でモバイルのこぎりで竹を微調整したりする。

こんな感じで、各集落からワラワラと集まってくる!すごい迫力。

BUBBLE-Bは梨木内堂社での参加!
なんか嬉しい!

凄い数が集まってます

ここでも祝詞があげられる。

今年の権立(今年成人になった男性)4人のうちの一人、斉藤くん。
昨日一緒に竹に藁を巻いていた彼だ。

立派な男根太刀を携えて、格好いい!!

権立はモテる! …のか!?

で、御神酒として日本酒がガンガンに回ってくる!!
飲んでも飲んでも回ってくる!!

酒は、二本松の地酒である「大七」が定番とのこと!
すっきり辛口で飲みやすい!

当然回ってきたものは全部飲む!

餅つきも行われる。

で、これ! 「幡競争」!

ただでさえ重い幡を持って競争するという。
ようやるわ!絶対無理やわ!
と人ごとのように思ってたら、ご指名があり参加することに…

うわ~これ持って走るとか尋常じゃ無いぜ…

ザ・へっぴり腰

スタート!!

意外にもイケる!!

あ、、、あかん!!!

予想通りのビリとなりました。

すでに満身創痍

いよいよ長丁場の始まり!ここから歩きまくることに

いよいよ幡祭りの始まり!

めちゃめちゃ美しい

こんな感じで農村の道を延々と行列して、山の上にある神社までひたすら歩く。

幡の重さも色々あるけど、重量級の幡を持つにはコツがあるのだという。

この幡祭り、雨が降っても雪が降っても決行するというのだから凄い。
今回は快晴でとても良かった。
もしこれが大雨だったり大雪だったりしたら大変だ。

時折こういう、ホラ貝みたいな音を出す笛が鳴らされる。
これがまたエモいのだ。

ずいぶん歩いて、まずは木幡山参宿所・治家公園へ!

いや~天気も良くて幡が綺麗!
しかし重い!

ここでお昼休憩となる。

宮司さんと私

午後はさらに険しい道へ…

ここからは完全に山道へ。
山頂にある隠津島神社を目指してひたすら行列。

こんな感じで延々と歩く
げっ、道が!

途中、今年の台風19号で路肩が崩れた道(普段は通行止め)の横を通ったりして…

集落の人達とワイワイ喋りながら、重い幡を交代で持ったりして歩いていると、不思議な一体感が生まれてくる。

まだまだ歩く。もう何キロくらい歩いただろう?

ここで休憩タイム!
ふぁ~長かった!

振る舞われたドリンクは、

ホットコーヒー!

なぜここで!

意外な場所でコーヒータイム。

りんごなども振る舞われる。

そしてさらに、山を登る。
すでに舗装道ではなく、獣道となっている。
しかも険しい!!

ここからは幡は上げず、みんなで担いで登る。
ここが最もハードだった。

とにかく登るのみ
みんな汗だくである

そして幡祭りはクライマックスへ!

やっとたどり着いたのは、山頂みたいな所!
ヒーーーこりゃ大変だ!

これを持って上がったわけですよね!?

一緒に担いだ梨木内堂社の皆さんと記念撮影。
もう、すっかり昔からここに住んでいたかのように打ち解けております。

遠くに見える安達太良山が美しいのなんの…

しばしの休憩

でも、まだ山がけは続きます(汗)

さらに険しい道を上ったり、下ったり、完全にエクストリームでクロスカントリー的な何かになっている。
担いでる幡も重いし!

この巨岩にお参りしたら、いよいよ終盤!

この塔まで来ると、本殿までもう少し!

最後、この階段を一気に駆け上がる!!

先頭で白い幡を持ってるのは自分です。

残りの体力を全て振り絞って一気に駆け上がる!!
…も、途中で木に引っかかる(泣)

そんなこともありながら、ゴール!!!!!!!

無事到着!!!
いや~皆様お疲れ様でした!!!
すっかり夕方です。

神主さんからのご挨拶を聞いて、万歳三唱して祭りがシメとなります。

今年の権立4人衆!
みんな男根太刀を携えてここまで来たんだな。
かっこいいぜ!

ちなみに権立は途中から別行動となり、岩と岩の割れ目をくぐる「胎内くぐり」という儀式に参加するという。
そこでもまた不思議な禅問答があったりと、祭りのコアな部分を感じさせてくれるのだそうだ。

祭りの主役は権立たちで、男根を持って割れ目をくぐるというのは勿論、子孫繁栄のための儀式のメタファーである。

そしてエンディングへ

夜は再び「直会」(なおらい)

皆さんと鍋を囲んで、めちゃめちゃ盛り上がる。

集落の人口が減って、幡祭りへの参加者も減ってきて、年々寂しくなっているという。
だから、外からこうやって参加してもらえるのはとても嬉しいと言われた。

僕で良かったのか~、でも嬉しい。
こういった祭りってクローズドなので外の地域に住んでいる人はなかなか参加できないものだけど、今回みたいな機会は本当にレアだ。

内容はハードだけど、そこにはかなりのエモさがあったし、忘れられない思い出になりそう。
なんというツアーだ。

楽しすぎました。

祭りとは何だろう?
合理性とか効率とか、そういった言葉とは全く無縁の世界。
なんで毎年竹を採るところから?なんで重い幡を山の上まで担ぐの?
それは「祭りだから」であり、祭りは「神事だから」である。

「また来年も来てくれるんでしょ!?」

と言われたので、皆さん、いかがでしょうか!?

参加したくなったら、日本中の素敵な人に会うことをコンセプトにした旅を企画するツアー会社「あうたび」さんのページをチェックしておこう!

普通では絶対体験できない旅があるはずだ。