BUBBLE-B「麻婆トラックス」全曲解説

NEW ALBUM「麻婆トラックス」リリース

BUBBLE-B「麻婆トラックス」

2024年10月、BUBBLE-BのNEW ALBUM「麻婆トラックス」リリース。
DJで使えるおもしろトラック、全9曲。今作はBandcampと即売会&通販のCD-Rです。

 

制作に至るまで

去年くらいから、DJで使えるトラックを作りたいと考えていた。
2000年、BUBBLE-Bとして初めて作ったアルバム「金持ち男 ’90」が、割とイメージに近かった。

当時はナードコアテクノの夜明け。カラテクノとしてバチバチのハードコアを作ったり、ステージでパフォーマンスしていたけど、ある日少し行き詰まって疲れてしまった当時の私は、一旦休んでリセットしたかった。

もっとシンプルな音で、もっと自由に。ハウスとテクノを作りたい。
そんな気持ちで短期間で作ったのが、新ソロ名義「BUBBLE-B」としての1stアルバム「金持ち男’90」。

細かいことは考えずにどんどん作る。面白いと思ったら何でもやる。
途中で考え込むこともネタ切れになることもなく、最後まで勢いをもって作る。
2ヶ月で15曲ほど作ったのではないだろうか。
当時の私は20代前半で若く、徹夜で曲を作っても、そのまま寝ずに会社に行っていた。20代前半だからできた無茶である。

あれから24年経った今の自分に、同じことができるだろうか。そこに興味があった。
年齢と共にある部分は進化したけど、またある部分は劣化した今の自分だったら。
重量級の同人誌制作が一段落したので、作るタイミングが来た。

なぜ麻婆トラックスなのか

当初は「金持ち男 ’89」というタイトルを考えていた。’89というのは当然Get Wild ’89である。
しかし2000年当時と違い、今このタイトルを付けると平成リバイバルや平成レトロを期待させてしまうかも知れないから違う。
つうか金持ち男ってそもそも何。そんな昔の作品を擦っても、知ってる人は多分もういない。

日帰り温泉の露天風呂で、ふと思いついたのが「麻婆トラックス」。
トラックメイカーでJ-POP DJとしての自分。チェーン店探訪する麻婆豆腐愛好家で全マ連。
過去と現在。田舎にUターンして地元を散歩する自分。
時間軸と横軸、共にバラバラに散らかったBUBBLE-Bがリンクする。

タイトルが決まったら、ジャケットはおおちゃんに描いてもらおうと思いついた。
おおちゃんは、去年の町田カプセルのイベントでご一緒したDJかつイラストレーターの方で、シュールさと可愛さ、そして軽さが同居する独特の作風。最高のジャケット、めっちゃ気に入ってます。

トラック01.「MABO LOVE」

麻婆トラックスというタイトルが決まってから作り始めた1曲目は、AIボーカルのSynthesizer Vを初めて使ったワープハウスなトラック。
大阪音楽大学のオウンドメディアでライターのお仕事を頂いているのだが、去年、DTMスクールのSleepfreaksさんがSynthesizer Vのデモンストレーション講義を行ったものを記事にしたのが、Synthesizer Vと自分の馴れ初め。
Synthesizer Vのライブラリはなぜか大半が女性ボーカルだけど、ちょうどフリモメンというイケ声系の男性ボーカルライブラリが発売された。真顔で朗々と歌ってくれるので、これ以上のものはないなと。麻婆豆腐好きで全マ連という麻婆豆腐愛好家のオフ会を開いたりするくらいなので、それを歌に。
タイトルのMABO LOVEというのはそのままの意味でもありつつ、かつてDJのジョン・ロビンソンがvelfarreでやっていたPLANET LOVEというパーティがあり、その朝方のアフターアワーズで綺麗系ワープハウスやトランスが爽やかにかかっていた思い出を少し込めた。

トラック02.「BUBBLE ANTHEM ’89」

「金持ち男 ’90」の1曲目が「バブルアンセム」という曲で、冒頭の金谷ヒデユキの声サンプルから始まっていた。24年前の1stアルバムの1曲目を今作るならば。とはいえ曲自体は全然別物で、ハードベース(DONKベース)とレイヴを行き来するようなものを。また今年はリッジレーサー30周年のリミックスアルバムにレイヴなトラックで参加しており、気持ちとしてはその流れを。

トラック03.「WANWAN RAVE」

実家の近所で飼われている犬が、前を通る度に吠えまくるので、スマホで鳴き声を録音。犬が大きな声で吠えるのは、外部の侵入者を威嚇するためのスクリームなので、レイヴにおけるサイレンに近いかなと。ハードコアテクノが鳴り響くフロアに犬がけしかけられるイメージで。

トラック04.「NYANYA DISCO」

WANWAN RAVEのラフミックスをXで公開したら良い感じに反響があり、猫も欲しいというリクエストがいくつかあった。おれを何だと思ってるんだ。でも猫って犬のように外で飼われてないし、野良猫もいないし、鳴き声の録音なんかできそうにないので猫ボイスを募集したところ、たくさん頂いた。ニャードコアである。

トラック05.「MAD ISHIYAMA 077」

半年くらい前の一時期、事務所のあるマンションで、夜中2時頃になると突然おっさんのスクリームが聞こえることがあった。うちのマンションの住人か、近所の家なのかは定かではないが、ほぼ毎日、やや遠いところで何やら突然絶叫するので、その度にビクっとしていた。でも、何を叫んでいるのか全く分からない。
ベランダにスマホを置いて1時間くらい録音していたら、無事にスクリームを捕獲できた。それを数日繰り返し、数パターンのサンプルを採取。最新のAIノイズリダクションで環境音をカットし、スクリームをできるだけクリアにする作業を行った。テクノロジーはこんな所にも使われる。でも、何を言ってるのか全く分からない。日本人なのかどうかも。
ちなみにここ半年くらいは一切聞こえなくなったので、どこかに行ったのだろう。
タイトルは、かつて「MAD KAWASAKI 044」というトラックを作ったことがあり、その流れで。077というのは大津市の市外局番。

トラック06.「CASHLESS DANCER」

近所のコンビニのセミ・セルフレジを何度も使っているうちに、あの音声ガイドが妙に気になり始めた。というのも「~下さい」と何度も言われるが、メッセージごとに「さい」のピッチが違う。「お支払い方法を選んでください」「バーコードを従業員にお見せ下さい」「レシートをお受け取り下さい」ごとに「さい」のテンションが微妙に高まっていく気がするのだ。
これはちょっとテクノにすべきかなと思ってスマホで録音、AIでノイズリダクションしてEQで補正するとかなりクリアになった。まあ、だから何だ、っていう。

トラック07.「SAIHATE YOUTH HOSTEL」

ちょっと短いインタールード的なハードコアトラック。
「おっかえりなさ~い」という男性の声から始まり、意味不明な人には丸っきり意味不明なはず。
解説すると、タイトルの「SAIHATE YOUTH HOSTEL」というのは日本の果て、北海道の礼文島にある桃岩荘というユースホステルのこと。
ここはかつて日本三バカユースホステルと呼ばれ、その唯一の生き残り。とにかく歌って踊る、好きな人はめちゃくちゃ好き、嫌いな人は大嫌い、という、昭和のカルチャーを頑なに保持し続ける、超クセつよな国宝級ユースホステルである。
その日泊まるお客さん達が玄関に来ると、先に泊まってる宿泊客やヘルパーさんが一斉に「お帰りなさ~い」と全力で迎えるのが伝統で、その時にタンバリンやラッパなど色んな楽器を鳴らしまくるので、その様子をサンプリングした。
また最後の「プーっ」という音は、桃岩荘の館内アナウンスが入る時に必ず鳴るブザー音。
とはいえ本当に凄いのは歌って踊る「ミーティング」という時間で、そこは現地で是非体験して欲しいなと。
「最果てアンビエント」で利尻島をコンセプトにアルバムをリリースしたのが2021年で、その文脈を再び持ってきた。
あと、「礼文」と「レイヴ」の語感が似ているというのもある。

トラック08.「SETAGAWA TRANCE」

一番最初に作った曲がこれ。近所に流れる川「瀬田川」は琵琶湖から流れる唯一の川で、自分の育った南郷という街には「瀬田川洗堰」という大きな堰があり、琵琶湖から流れる水量の調整をしている。
大雨が降ると琵琶湖の水位が一気に上がるので、瀬田川洗堰はゲートを全開操作するのだが、その際は防災スピーカーから地区全体にアナウンスが流される。このアナウンスは地元ではお馴染みのもので、聞いたことの無い人は一人もいない。
大雨が降った翌日、瀬田川洗堰が全開になる日、スマホでアナウンスの録音に成功。そんな一部の滋賀県民しか知らないローカルアナウンスをトランスのビルドアップに持ってきたのがこの曲。スマホを使ったフィールドレコーディングで音を採取して、ダンスミュージックに取り込むのは面白いなと気付いた。ローカル・サンプリング。
ちなみに瀬田川は京都に入ると宇治川となり、大阪に入ると淀川と名前が変わって、大阪湾に流れ込む。

トラック09.「麻婆音頭」

いきなりの音頭、とはいえダンスミュージックでしょ。地元の盆踊りでDJをすることも増えてきたので、自分のDJ活動の文脈には盆踊り、音頭がある。
作業の節目で南紀白浜の温泉に行ったとき、MABO LOVEでフリモメンが歌ったメロディを音頭化することを思いついたのがこれ。
音頭のビートは和太鼓の低音をベースに、チキチキという音をたてる鐘(しょう)、和太鼓の淵を叩くリムショットがリズム隊。
そこに笛が乗るが、さらにストリングス、エレキギター、エレキベース、トランペット、トロンボーンまで鳴らしてみた。歌詞はもちろん自作。
盆踊りで音頭として使われたら楽しいなと。あと、来年の四川フェスでも是非かけたい。

全9曲揃いました

全部で30分も無く、軽く聴けるアルバムになったかなと。DJで使ってもちょっと面白いのではないだろうか。
まだ学生だった時にTOY LABELを京都の小野寺と立ちあげてから30年。54作目のTOY-054となりました。
聴いて頂いたみなさま、ありがとうございます。