20年ほど前、高野政所さんとよく喋った話題で
「『逆にいいよね』って言うやつ、何なの?」
というのがあった。
「逆にいいよね」
当時、活発にライブやDJの活動をしていた彼は、そこかしこでそう言われたらしい。
私も同様に言われることがあったので、この話題は大変共感していた。
「逆にいいよね」
良かったら普通に「いいね!」って言えばいいのに、何が「逆に」なんだよ。
何だか分からないけど、心の中がざわつく。
そう言ってくるやつらは大概いけ好かない感じのやつらだったことも、心のざわつきに拍車をかけた。
いや、相手は決してこちらをDisってるわけではなく、むしろ褒めているに違いない。
それだけに、どう反応したら良いのか分からないもどかしさ。
単純に「ありがとう」と返せば良いのか?
なんか違う気がする。かといって怒るのも違う。
いつも答えは出ないままだった。
言われてばかりなのも何なので、一度くらい誰かに言ってやりたくなった私は、ある日、知りあいのDJに言ってやった。
「今日のDJ、逆に良かったよ!」
そう言われた彼は目をきょとんとさせて、「逆…に?」と聞き返してきた。
何の逆なのか理解出来なかったのだろう。私も分かっていない。
その後、大切な知りあいに「逆に」なんて言ってしまった罪悪感に、しばらく苛まれてしまった。
良いものに逆も何もないではないか。
一体何が逆だというのだ……。
あれから20年が経った今、当時言われた「逆にいいよね」とは何だったのか、少し振り返ってみたい。
昔、クラブと呼ばれる場所は、今よりもずっと保守的だった。
クラブとは、格好良い音やオシャレな音、本場そのままの空気感。そういったものに刺激を浴びるための都会的で洗練された場所だった。
だから、禁忌される音楽やパフォーマンスが今よりもずっと多かった。
私も政所さんもやりたい音楽をやっていただけなのだが、それが「オモシロ」や「シュール」、時には「エグさ」みたいな要素を比較的多く含んだ少しクセツヨ音楽だったせいで、クラブでのいわゆる「王道」とはだいぶ異なっていた。
それについて自覚的ではあったが、そこは曲げずに貫くことをヨシとしていた。
その結果、王道を征った者は素直に「いいね!」と言われ、王道とは対極を征く我々のような者が「逆にいいよね」と言われたのだろう。
たったそれだけのことだ。
「逆に」というのは、「オルタナティブとして機能した」ということでもあり、ある意味の勲章なのかも知れない。
そして現在。
私はもはや誰からも「逆にいいよね」なんて言われなくなった。
これは、自分達が変わったのか、それとも時代が変わったのか?
それはおそらく後者だろう。
今は多種多様なスタイルでも幅広く受け入れられるようになり、禁忌されるようなものは無くなった。
それは、自由を享受できる楽しさがある反面、王道や戒律に背を向けるようなオルタナティブが成立しづらくなったとも言える。
それは別に悪いことではないし、つまらないことではない。
でも、たまには「逆にいいよね」って言われたい。
あの頃の胸のざわつきを、久々に感じたい。
シュッとしたいけ好かない感じのやつに、「逆に良かったよ!」と言わせてみたい。
だから、こんなものを買ってみた。
与作は木を切る ヘイヘイホー カーーーーッ!
DJでこんなの使ったら、逆にいいでしょ?