10年続いたTRAKTORとWeGOの蜜月
10年来、PCDJのソフトとしてNative Instruments製のTRAKTORを使ってきた。
地味だが質実剛健、ユーザーも多く、歴史あるPCDJソフトだ。
MIDIコントローラーは、相変わらずPioneer DJの初代DDJ-WeGO。
なぜそんな古い、しかも入門用の機種を使い続けているのかについては、こちらを読んで欲しい。
これを書いている2022年の7月でも、まだ初代DDJ-WeGOを使っている。でも、さすがに2台目だ(初代を買い直し)。
まともなプレイ感覚がありつつ、25Lのデイパックにすっぽり入っるサイズのコントローラーとして、いまだに替えが効かない。
そんな初代WeGOにバンドルされていたDJソフトは、Algoriddim製の「DJay LE」と、Atomix Productions製の「VirtualDJ LE」。
2012年当時、両方ともApple Lossless(以下ALAC)ファイルの再生に対応しておらず、使えね~とゴミ扱いしていた。私のiTunesライブラリの大半はALACなので、非対応だと厳しい。
そしてすぐ、Native Instruments製の「TRAKTOR PRO 2」を買った。最初からこれが使いたくてWeGOを買ったようなもの。
TRAKTORならALAC形式も再生できる。
初代WeGO用のTSIファイル(TRAKTORにMIDIコントローラーをマッピングさせる設定ファイル)もPioneer DJのサイトからダウンロードできたので、難なく導入完了、問題無く現場投入できた。
そんな初代WeGOとTRAKTORの組み合わせで10年やってきた。
その間、様々なMIDIコントローラーを買っては試したが、寸法、重さ、プレイヤビリティなどの観点から、結局初代WeGOに戻っている。
問題はTRAKTOR側にあった
現在、TRAKTORのバージョンは3.5。
普通に動いているが、TRAKTOR、バージョンアップが非常に遅い。
Native Instruments社は優れたDTM製品を作っているが、DJ製品群からはあまりやる気が感じられない。
RyzenなどのAMDのCPUでたまに不安定になる問題に対しても対応されたのかどうか不明だし、MacBookのM1・M2 CPUにもネイティブ対応していない。あと、MP3のID3タグのバージョンや文字コードによっては、Collection追加時に2バイト文字が文字化けを起こす問題も、いまだに起こる。さすがドイツ製ソフト、日本語環境での品質管理が甘い。
それでもちゃんと動けば良いのだが、TRAKTORのバージョンを3にしてからか、明らかに動作が重くなった気がしている。これが一番の問題点。
使ってるノートPCはLenovo ThinkPad X390で、CPUはi5-8265U、メモリは8GB。今となっては非力なマシンだが、TRAKTORを動かすくらいなら問題ない性能だ。
TRAKTORでDJを開始すると、最初の15分は問題なく動作する。
起動直後のTRAKTORの様子。波形のスクロールがなめらか
しかし、徐々に波形のスクロールがカクつくようになる。
起動から15分後のTRAKTOR。スクロールがカクカクに…
不快だ。
そして、そのまま1時間くらいDJを続けると、波形スクロールはもっとガタガタになり、曲の検索に困難をきたし、突如として完全に操作不能になり、音が消え、固まる。
強制終了と再起動を余儀なくされる。
長時間のDJをした先日の四川フェス2022ではこの現象に何度も遭遇し、大変困った。
一体これは何なのだ?
TRAKTORの不具合なのか?
それとも仕様なのか?
これってバグなの?仕様なの?
TRAKTOR 2時代には起こらなかったこの不具合は、バージョン3か3.5からか、毎回起こるようになった。
色々なドライバをアップデートしたり、省電力モードを全OFFにしたりと試してみたが、起こる。
知りあいが言うには、「CPUの温度が上昇して、自動的にクロックを低下させる制御が入り、このような動作になる」と。「温度が上昇するのは本体ファンがうまく動いてないのでは?」とのこと。
なるほど。ありえる…か?
それでは、温度変化をモニタリングしてみよう。
TRAKTORを走らせながらCPUをモニタリング。
上の段のピンクの線がCPU温度、真ん中がCPU負荷、下がCPUへの電力。
時間経過と共に温度がグングンと上昇し、ある地点から負荷が上がり、CPUへ供給される電力がどんどん下げられているのが分かる。
CPUは80度を超えるとハードウエアレベルでCPUガードが働き、電力が下げられてクロックを落とされる。
しかし、TRAKTORが要求する処理は一定なので、非力になってしまったCPUに対し、相対的に負荷が上がるということか。
そしてこれが続くとさらにCPU温度が上がって突然死するのだろう。
TRAKTORの動作要件は「Core i5または同等のCPU、4 GB RAM」とあるので、i5-8265U CPUと8GBメモリだとクリアしているはずなのに。
さて、どうしよう。
ノートPCをもっとハイパワーな物に買い換えるか、別のDJソフトを試してみるか…?
PC買い換えは大変なので、まずはTRAKTOR以外のDJソフトを試してみることにした。
10年ぶりに対面したお前、立派になったな
初代WeGOに対応しているDJソフトは限られている。
Seratoは最初から非対応なのでNG、Pionner DJ謹製のrekordboxは初代WeGO非対応なのでNG。
となると、WeGOにバンドルされていたDJay、VirtualDJのどちらかとなる。
物は試しと、VirtualDJの時間制限あり、機能制限無しのデモ版ダウンロードしてみた。
すると…
10年前、一度はゴミ判定したVitrualDJだが、2022年の最新版のVirtualDJは別物に進化していた!
ALACファイルは普通に使えるし、動作はサクサクでコントローラーの追従性が高いし、波形のスクロールはヌルヌル滑らかだし、その波形もボーカルが載ってる箇所やリズムが載ってる箇所などがパッと見て分かるようなデザインになってるし、何よりも新機能として、既存の曲からボーカルだけをオフにするような、他のDJソフトに無いステム機能まである。
こりゃすげぇ。VirtualDJ、いつの間にこんな進化したの?
曲検索時の反応も凄く早くて、快適そのもの。
そして、起動と終了も早い。TRAKTORは起動に10秒、iTunesのライブラリ表示にまた20秒かかっていたけど、これがVirtualDJだと0.5秒くらいでパッと使えるようになる。終了もTRAKTORだとデータベースに書き出しとかで10秒くらい待たされていたけど、VirtualDJだと×ボタンを押した瞬間にサッと終わる。
良いではないか!
TRAKTORと負荷を比較してみよう。
こちらはTRAKTORの動作時負荷状況。
動作開始から5分後くらいの負荷は、20%~25%くらいと、結構高い。
GPU(UHD Graphic 620という内蔵ヘボグラフィック)の使用は5%ほど。画面描画にGPUはほとんど使っていない感じ。
対してVirtualDJは…
動作開始5分後のCPU負荷は5%前後! か、軽い!
そしてGPU負荷は15%前後。こっちはCPUとGPUの両方に少しずつ負荷を与えてるみたい。
こんな感じなので、TRAKTORの場合は本体がどんどん熱くなり、盛大にファンが回り始めるが、VirtualDJの場合は全然熱くならない。平常時のままでっせ、って感じ。
懸念していた、オーディオIFの外付けもできる。
WeGOのマスターOUTも使えるけど、WeGOはマスターOUTの音質がショボいので、オーディオIFを別に装着させ、CDJ2000NXS2などの音質に負けないようにするのだ。
TRAKTORの時は同時に接続できるオーディオIFは1系統なので、マスターOUTとヘッドホンOUTの4chあるオーディオIFが必要だが、VirtualDJは複数のオーディオIFを同時に接続できるので、例えばマスターはUA-M10、ヘッドホンはWeGOのヘッドホン端子、ということができる。
つまり、外付けオーディオIFは2chアウトさえあれば何でも良いので、音質を向上させるための自由度が格段に上がった感じ。
さらに、TRAKTORで解析した曲のBPMやキーなどもそのまま引き継がれ、何の問題も無くDJができる。
もう、これで良くない?
日本で人気のあるDJソフトといえばSerato、TRAKTOR、rekordboxの3つで、それ以外を使っている人はほとんど見かけない。
なんでみんなVirtualDJ使わないの?
VirtualDJを現場投入してみた
DJ機会を得て、VirtualDJ構成を初めて現場投入してみた。心斎橋パルコ地下2階のTANK酒場だ。
ThinkPad X390でVirtualDJ PROを動かし、初代WeGOをコントローラーにして、Roland UA-M10からマスターを出している。
TRAKTORとはかなり異なる雰囲気のUI。
さまざまなスキンが配布されていて、ガラッと別物に変身させることができる。
これはデフォルトのもの。結局デフォルトが一番スッキリしている。
波形の表示が特徴的。
真ん中の色の濃い所は、ギターやベース、シンセなどの楽器音。
上下に出ている色の薄い所は、ボーカル。
白いトゲトゲは、ドラムのキックとスネアなどの音。
1曲まるごとの波形で、どこにボーカルが入って、どこで抜けてるのか、というのが一目瞭然で分かるため、1コーラス、間奏、2コーラスの区切りが視覚的に把握出来る。また、波形の下の線はドラムのキックが鳴っている部分で、途切れている部分はキックが抜けているところ。
この波形表示だけで私は感動してしまった。
今まで1コーラス目が終わって間奏の所でミックスしていたけど、間奏の長さを把握してない時、ついつい間奏が終わって2コーラス目に突入してしまい、途中で抜けられなくなることが多々あったが、それが無くなる。まさに歌モノDJのための波形表示である。
そしてもう一つ、というかVirtualDJ最大の武器がこれ。
右下にある「STEMS」と書かれたタブと、その下にある「Vocal」「Instru」「Bass」「Kick」「HiHat」のボタン。
これらは、MIDIコンのパッドにアサインできる。(WeGOはHOT CUE用の4つのパッドしか無いが…)
この中の「Vocal」を押してボタンを消灯させれば、リアルタイムに、かなり高精度にボーカルが消され、自然な感じでカラオケ楽曲になる。
これを楽器音だけ、ベースだけ、キックだけ、ハイハットだけ…と、それぞれの音に対して個別に消したり出したりできるのだ。
TRAKTORでもステム機能はあったが、あれは元からバラしている形式のデータをミックスする機能。
それに対し、VirtualDJのステム機能は、AIエンジンを使って既存の楽曲全をバラせる、という鬼機能である。
例えばボーカルだけを残すとアカペラになる。そこに全く違う曲のボーカルだけを消したものをテンポを合わせてミックスさせると、凄く綺麗なマッシュアップがリアルタイムに作れる。
吉幾三「俺ら東京さ行くだ」の吉幾三ラップだけを残し、Diggy-MO’のラップを消したSoul’d Outの曲とミックスさせる、ということだってできる。恐ろしいではないか。
また、間奏でミックスさせたいけど、2コーラス目のボーカルが弱起で、頭が少し被ってしまいそうな場合、間奏の間に元の曲の方のボーカルを消しておく。そうすると、2コーラス目の頭のボーカルが入り込むことなく、綺麗にミックスがキマるのだ。
こんなのずるい!最高!
VirtualDJの、致命的な欠点
VirtualDJ、とりあえず褒めてみた。
動作が軽く、機能も豊富で、設定項目も細かいし、そして映像も出せるのでVJの方々にも愛用されている。
USBにサブモニタを付けて、NOW PLAYINGとして今プレイしている音源のジャケや曲名を映像出力することだってできる。
そんなVirtualDJだが、致命的な欠点が2つ。
一つ目は、
高い!
そう、高いのだ。
定価にして、TRAKTORの4倍近く。
サブスクだと、月に2,900円ほど。
買い切りだと、46,000円ほど。
TRAKTORだと13,000円だというのに…
使うコントローラーを1台に限定したHOME PLUSライセンスの買い切りだと15,000円ほど。
(1ドル136円の本日価格)
昨今の円安がモロに価格に影響しており、高い。高すぎる。
サブスクで月2,900円はさすがに高いよ。
rekordboxの有料プランだと、この3つ。
単純比較はできないが、CreativeプランはVirtualDJのようなボーカル位置解析をしてくれて、年間16,280円。月1,400円弱ほどなので、VirtualDJの半額以下だ。
rekordboxを販売するアルファシータ社はさすが国内企業、円安に左右されにくいが、日本法人すら無いVirtualDJの会社は円安が直撃してしまう。円高だった時にPROライセンスを買っときゃよかったよ…
次の欠点は…
マスターテンポ時、テンポ変化による音質劣化がある
そう、これ。
デジタルDJの泣き所、マスターテンポによる音質劣化。
VirtualDJでマスターテンポにすると、+側と-側、どちらに持って行っても音質が少し劣化する。
キックの頭がランダムにつぶれたり、音像が妙にボヤけたりする。
なのでマスターテンポを使わずにテンポチェンジさせるという心持ちでやった方が、音質的には良い。
ここに関しては、TRAKTOR PRO 3の圧勝。
TRAKTOR PRO 3はマスターテンポにしてテンポチェンジをさせても、キックの頭はしっかり残ってくれて、とても自然な処理がなされる。
「音楽的に分かってる感じ」の加工が頼もしい。
あと、VirtualDJはEQの切れがいまひとつ。
3バンドEQ、どのノブを回しても、ヌルい。
もっと激しくガーっと削ったり盛ったりしてほしいのに、あまり効いてる感じがしないのだ。
この辺もTRAKTOR PRO 3はしっかりやってくれる。
このあたりの音質的欠点をしっかり分かりつつ、回避できるかどうか?だと思う。
とりあえずサブスクで
そんなVirtualDJ、ちょっと高いけど、とりあえずサブスクで使用開始。
まあしばらくは初代WeGOでしか使わないだろうから、HOME PLUSライセンスを買ってもよいかも知れない。
コントローラーはもう1台、NativeInstrumentsのTRAKTOR S3 Mk3を持っており、そちらもVirtualDJフル対応している。パッドの数やノブの数が多くて色々できるのだが、本体サイズなどからあまり出番も無いので、これはTRAKTOR専用にしても良い気がする。
そう、やたら対応機種が多いのもVirtualDJの特徴。
rekordbox専用機種でも、Serato専用機種でも、何事も無かったかのようにVirtualDJを動かせる。
TRAKTORのTSIファイルみたいな面倒くさいマッピング作業もいらず、自動的に機種判別して、自動的にアサインしてくれる。アサインされた機能は後から好きにカスタマイズできて、そのバリエーションはいくつも保存できる。
とりあえず試したい場合はサブスクで。1種類のMIDIコン専用にしたい場合はHOME PLUSで、いろんなMIDIコン試したるで!という場合は買い切りのPROが良いだろう。
ちなみにバンドルされているLEだと、ミックスの機能はPROと同等だが、ブラウジング画面(曲一覧が出るところ)にBPMや収録アルバムの情報が出てこない。家で遊ぶだけなら良いと思うけど、現場的には致命的。
VirtualDJのLEは使える!凄い!というショップの誇大な宣伝に騙されぬよう、気をつけて下さい。LEは使い物になりません!
という感じで、一旦TRAKTORをやめて、VirtualDJに切り替えようと思う。慣れていきたい。